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はてな広報ブログ

株式会社はてなの広報ブログです。ウェブサイト「はてな」の話題やイベント情報、サービス開発の裏話など多彩な情報をお伝えします。

座談会 ネット時代のこころを探る(ゲスト 近藤淳也)【前編】〜京都大学こころの未来研究センター学術広報誌『こころの未来』〜

jkondo

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本年5月、京都大学こころの未来研究センターにて「ネット時代のこころを探る」というテーマの座談会がおこなわれ、はてな代表・近藤淳也id:jkondo)がゲストとして参加しました。
「異なる学問領域の研究者が集い、こころに関する学際研究を推進する、他に類をみないユニークな研究組織」として様々なプロジェクトを推進する同センターの3人の助教の方々と語り合った模様を3回に分けてご紹介します。
(本内容は同センターの学術広報誌『こころの未来 vol.3』掲載記事をセンターの許可を得て全文掲載したものです)

座談会 ネット時代のこころを探る【前編】

インターネット時代を迎え、人のこころのあり方、あるいはこころの捉え方はどのように変わりつつあるのか。常識にとらわれないウェブサービスの会社「はてな」を運営する近藤淳也さんをゲストにお迎えし、センターの助教が縦横に議論する。

参加者
  • 近藤淳也株式会社はてな社長)
  • 内田由紀子(こころの未来研究センター助教)
  • 平石 界(こころの未来研究センター助教)
  • 森崎礼子(こころの未来研究センター助教)

個室文化から開かれた場へ

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内田 近藤さんの運営している株式会社はてな(以下「はてな」)はウェブサービスの会社ですが、提供しているサービス内容とともに、ユニークな職場づくりでも注目されています。場づくりは集団にすごく影響しますね。
近藤 僕はそういうことにとても興味があるんです。アメリカへ行ったとき、ヤフー(Yahoo!)さんとグーグル(Google)さん*1を訪問させてもらいましたが、オフィスを見れば考え方やコミュニケーションの仕方が全然違うことがすぐわかる。ヤフーはけっこう高いパーティションで仕切られていて視界がさえぎられて外があまり見えないんです。グーグルはガラスで仕切られていて、3人部屋とか4人部屋でけっこう狭いんですが、その人たち同士はすごくしゃべっている感じがあります。 そういうことは参考にさせてもらっています。
内田 「はてな」はラボみたいなイメージかなと思うんです。いろんな人が一緒の部屋にいて、自由に議論もできるというような感じ。個室にこだわらない。
近藤 そうそう。
内田 場というのは、アウトプットであるとか、社のイメージにすごく反映すると思います。大学はどちらかといえば個室文化で、自分の領域を守っていくというのが強い。例えば、心理学にしても、いま、認知心理学進化心理学文化心理学などに分野が細分化されていますが、心理学だけではなく、ほかの学問分野も細分化の傾向にあります。
近藤 それで「学際」が叫ばれているわけですね。
内田 そうです。とくにこころの未来研究センターはそこがポイントです。心理学はとくにそうで、例えば、私は社会心理学とか文化心理学をやっていますが、社会とか文化とこころの仕組みを考えるとき、どうしてもそれだけでは足りない。社会がどんなふうにこころに影響するのかを考えるには、生得的な要素とか、人間がどんなふうに物を見るのかと いったベーシックな理解が必要ですが、自分の専門分野しかやっていなかったらそこはわからないわけです。たぶんいままでは、「そんなものはほかの人がやっていることで私には関係がありません」みたいなスタンスでもやってこられたのですが、それではこころを理解できませんね。センターでは細分化を見直して、いろんな人が寄り集まって1つのもの をつくっていこうという方向性なんです。例えば、私と平石さんはオフィスをシェアしています。そういうのも、なかなかないことではないかと思います。
近藤 なるほど。いいじゃないですか。
平石 僕はいいと思っているんです。まだ1つのデータを一緒に扱う共同研究というところまでは行っていないけれども、授業を一緒にやったりしています。

いかに活発な議論を起こす場をつくるか

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平石 近藤さんの本『「へんな会社」のつくり方 (NT2X)』はとても面白かった。インターネットの世界でウェブサービスとしてやっていることと会社のつくり方が対応していて、どちらもオープンにして、みんなでどんどんディスカッションをして、楽しくやっていこうというモチベーションが徹底されている。それは爽快感があって、気持ちがいいなと思いました。
内田 それが物をつくったり新しいアイデアを生み出したりする原点だと思います。
近藤 いままではトップダウンで、「これをつくれ」「つくります」みたいなのが多かったですからね。
内田 従来のシステムは自分を守る感じがします。あまり突っ込まれたくないから。これを導入しましょうというときに、それじゃ困るというところが必ずどこかから出てくる。例えば、自分がいままでやってきたことを批判されるのは困るとか。いろんな分野の「守りたい」がきっとあるんだと思います。でも、守ることよりも、何かをシェアすることのほうがメリットがありますよね。近藤さんの本を読んだらきっと納得できるんだと思いますけれども。
近藤 物をつくることに関して言えば、僕は正しいとされているものは、基本的に全部謎だと思っているんです。こういう方向で何かやろうといったときに、その中で一番面白いとか、一番人が集まるとか、一番もうかるとか、そういう最適化を見つける。それが何であるかは、僕はすごく謎だと思うんです。謎なものに取り組むのに、トップダウンでだれかが決めたことが唯一正しいということはない。なるべくたくさんの意見が入って、なるべくいろんなことを試して、その中から適切に選べたほうが最適化に近づくと思う。
 僕はいかに意味のある活発な議論を起こす場をつくるかに興味がある。それがたぶん「はてな」につながっているのかなと思います。
平石 そういう考え方が、サイエンスとまったく同じだなという印象です。何が真実かはなかなかわからない。わからないことについて、いろんな人がいろんな研究をして、論文を書いて、みんなでディスカッションをして、何が本当に正しいのかを見つけていきましょうということが理想的なサイエンスの姿で、それとすごく近いなと思います。
近藤 「はてな」でサービスをつくる話でいうと、責任者は1人なんです。そこがすごいバランスで、だれでも意見を言いやすいような環境をつくるんですが、最後は責任者は1人にしているんです。
内田 それは、それぞれのプロジェクトごとにですか?
近藤 そうそう。「ディレクター」といっているんですが、サービスごとにディレクターを置いて、かなり権利を集中させるんです。このサービスについての仕組み、テキスト、デザイン、どんなキャンペーンをやるか、広告を入れるかどうかも、全部ディレクターが決めます。
森崎 そのディレクターはどうやって決めるんですか。
近藤 実績ですね。ウェブのサービスはエンジニアかデザイナーがつくるんです。あとは、ライターがちょっといる。エンジニアかデザイナーで、そういうサービスをある程度自分で考えてつくれて、人を集める能力のある人がディレクターになる。基本的に、ディレクターが何かやりたいと言ったとき、それを実行する一番いい方法は何であるかということに対して、たくさんの意見を出すのはすごくいいことなんですが、会議で決めるのは間違いだという考えでやっています。話し合いで決めると、全然面白くないものができる。  
 サービスに関しては、どうしても作家性みたいなものがある。何でもいいから何か1つ筋が通っていてほしいんです。例えば「はてなダイアリー」というサービスは、基本的に、同じ興味の人とつながれ ることがうれしいという価値観で統一されていま す。でも、そんなのとつながりたくないという人もいる。それもある意味、正しいんです。でも、それは価値観の問題であって、どちらか1本にしないと、何が言いたいかわからなくなってしまう。  
 アップルの製品が人気なのは、やっぱり1人の人が「これがいい」と言って1本筋を通している。日本の家電製品を見ていると、あの機能もこの機能も全部入れてあるでしょう。だけど、特徴を出すということは、いかに削るかなんです。そういうのは、1人が「いや、それは違う」と言って、とくに根拠がなくても切れる力がないとできないことです。

コミュニティ・サイトは人の成長を促す装置

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平石 「はてな」は社内もすごくオープンにしていますが、サービスのユーザーとの間もすごくオープンにしていますね。
 社内のいろんな会議も録音して公開してしまうということも近藤さんの本に書いてあった。うちはこういうふうにやっていますというのがあれだけオープンになっていると、ユーザーのほうも信頼できるというメリットがあると感じました。  
 近藤さんの本の最後のほうで、徹底してユーザーを信頼するみたいなことが書いてありました。それはすごいなと思うんですけれども、信頼することにはリスクもある。世の中に悪意を持っている人は当然いるだろうと考えたとき、徹底して信頼してオープンにするという「はてな」の方針がどうやって生き残ってこれているのかなと思ったんです。  
 自分の専門とからめて言うと、僕は協力行動はどうして進化するのかという話をずっと考えているんです。基本的な発想は、生物はみんな利己的である。利己的な個体が、お互いにちょっと譲歩し、ときどき協力し合うことで、トータルとしてはメリットが得られるという考え方です。自分が相手を助けるということは、その瞬間は自分にとってはデメリットだけれども、後で返ってくることが保証されていれば大丈夫だよねという話なんです。だけど、返ってくる保証はどうやって得られるのか。これまでの生物学の理論で言っているのは、お返しをしないやつに対しては懲罰が下る、そういう発想なんです。
 でも、「はてな」はそうではないですね。信頼して、オープンにして、情報を出してしまう。例えば、「はてな」のサービスを悪用して何かやってやろうという人たちに対して、どういう対処をしているのですか。
近藤 ユーザーがいい行動をする原因は何なのかというと、ほかのユーザーが何か言うというのがあります。例えば、グーグルと「はてな」が違うのは、グーグルは道具だと思うんです。目的があって使うもので、目的がないのに行くところじゃない。検索が必要だから検索エンジンをやるのであって、暇だからといって検索エンジンなんかしない。でも、「はてな」は場なんです。べつに目的がなくても、何か面白いことはないかなと思って見にきたりとかする場所だと思うんです。「コミュニティ・サイト」といいます。
 コミュニティって、街みたいなものじゃないですか。街の行政ってけっこうオープンですよね。市民を信頼しないと成り立たない。よい市民であろうとするのは、べつに市長が怒るからじゃなくて、お互いの信頼で成り立っている。パブリックな場所でこういうことをするとこうなるよ、というのがあって、そういう中でだんだん行動が決まっていく。 「コミュニティ・サイト」もそんな感じじゃないかと思うんです。
内田 悪人が追放される社会じゃなくて、むしろ悪人が自ら努力するなり周りから言われたりして変化していくという感じですか。
近藤 使っている人が、だんだん変化していくみたいなことが起こったらいいと思っています。「はてな」が提供しようとしているのは人の成長を促す装置なので、すごくいいことだと思うし、だから、あえてそういう人も追放したくないんです。実際に、子どもっぽいなというユーザーはいっぱいいます。でも、何回かやっているうちに行動が変わってきた りする。インターネットが登場してだいぶ経ちましたが、それでもまだ慣れていない人もけっこういる。だから、人とやり合ったときに、最初はうまくできないけれども、だんだん変わっていくみたいなのも見えたりするので、そういうのはある程度許容したいなというところはあります。度を超えたものはもちろんお断りしますけど。
内田 その考え方は、よく言われる「ネットが人間関係を壊す」みたいなのとは真逆ですね。
近藤 ネットは人間関係を壊すものなんですか。
内田 そういう話は結構ありますよね。例えば、いじめなんかにプロフ*2が使われる。するとプロフみたいなものがあるからダメなんだという論調が出てくる。
平石 学校裏サイトとか、書き込みとか。
内田 昔は個人的で限定的な交換日記ぐらいでやっていたことが、ある一定の人たちに公開することによって、いまはあいつがターゲットだということをはっきりさせる。そこから一律に、「ネットが人間関係を壊している」というふうに言う人もいると思うんです。新聞などでもそういう論調を見かけることがある。近藤さんの発想はそれらとは真逆だなと 思って。
近藤 そうですね。いじめみたいな、より凶暴化したものは嫌ですけどね。炎上*3とかもよくありますからね。
内田 匿名性みたいなところで、普通の社会よりエスカレートしやすいというのはたぶんあると思います。でも、ネット自体がそれをもたらしたのではなくて、使う側の人間のこころの中にもあるのではないかと思うんです。
近藤 そうです。ネットに張りついて、何か面白い攻撃対象がないかと思っている人たち、とくに滞在時間が長い人はちょっと偏っていると思うんです。そういう人たちが、何か矛先を求めてうわーっと集まる感じは嫌だなと思うんですが、それは過渡的なことかなとも思っています。実社会というか、ネット以外のところで、豊かな人間関係が築けていたり、コミュニケーションをしたいという気持ちが満たされている人って、ネットに目的もなく行ったりしないと思うんです。そういう人たちの、いわゆる常識的な感覚がもっと入ってこないといけないと思っています。  
 いま、ネットは危ないみたいな話で、そういう人を遠ざけようとしている。ネットは生活の中にどんどん入ってきていて、ツールとして使っているんだけれども、すぐ隣は危ないみたいな状態になっているのはおかしい。ごく当たり前に、「そんなことを言うのはおかしいやん」と言う人が増えればいい。その過渡期を越えようとしている僕たちの努力を止 めないでほしいなという感じはあります。
内田 それはわかります。もっといろんな人が使えば、変化するとか、教育されるとか、変わっていくといった、普段起こっていることがネットの中でも起こるのではないでしょうか。

ネットは進化する

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平石 それがネットの中で起きるかどうかは、僕はちょっとわからない部分です。
内田 匿名だからですか。
平石 匿名だし、実社会では注意する人は物理的にそこにいるわけです。その人の言うことを聞かないと、具体的に何か自分が困るようなことになりかねない。でもネットの向こうの相手にどういうふうに思われようが、ある意味、自分に全然何も返ってこない。ネットの世界も1つのリアルな世界だと思うのですが、やっぱり物理的なリアルの世界とは違うものだという気がするんです。  
 だから、ネットの世界で「おまえ、そんなことを言うなよ」と注意されて変われる人も多いと思うんですが、そうじゃない人がごく少数いたときに、その人が、大量に攻撃のコメントとかをガーッと送れてしまうということが、ネットというツールの、怖さとは言いたくないんだけれども、ある意味、怖さかなと。そこらへんは技術的なことで解決できると思うんですが。
近藤 システムは進化するんです。例えば、そういうことって、ミクシィ(mixi*4の中では起こらなかったりしませんか。
平石 そうですね。匿名性ということもたぶんある。かと言って、完全に個人情報をだすことにすると、もうちょっと自由でいいというふうになりますしね。
近藤 ブログ*5のシステムが最終形態だとは全然僕も思っていなくて、人の行動も仕組みも過渡期だと思うんです。だけど、本当にそれが社会に要請されたものであれば、絶対に次の新しい仕組みが出てくるはずだし、それが広がるはずだと思う。SNS*6が広がったのは、そういう側面があると思うんです。ある程度信頼できる人間だけがコメントを書き合うような世界のほうが一般人には受け入れられたという事実は実際にある。だから、いまあるネットの仕組みが全部生き残るとは思わない。だけど、SNSSNSでちょっと閉じ過ぎていて窮屈だからというので、いままたブログに出てきている人もいる。そこに何か微妙な、みんなの動きみたいなものがあって、僕は世の中全体として進化しつつある んだと思うんです。だから、一事業者としては、次に向かう仕組みをつくってみたいという興味を持って見ています。
平石 確かに、すごく変わってきたんだろうなと思うのは、本当にありとあらゆる人がブログを書いている。言ってみれば日記を公開するようなもので、そんなのは昔は考えられなかったことです。そして、自分が思っている、それこそ「よしなしごと」を書いてみたらけっこう楽しくて、それに人のコメントがつくというのは面白いという発見があったの でしょう。
内田 私はいくつかの生活情報サイトを見ているんですが、社会的なやり取りがすごくあって、単に情報交換をしているだけじゃない。共感できるような書き込みが多くあるサイトもあれば、そうでもないサイトもあったりします。見ていると、発言の内容がそれぞれのサイト内で似通ってきたりと、どうやら棲み分けがなされて、一種の「カルチャー」が形成されているみたいです。その棲み分けは、ぱっと見ただけでわかるのが面白い。  
 たぶんそれは普通の人間関係と似ていて、グループに入るときに、「ああ、ここなら入れるかな」とか、「こっちはちょっと無理かな」というふうに吟味しますよね。そのときには服装とか立ち居振る舞いとか、いろんな情報を元にしているけれども、ブログや掲示板の書き込みなどの短いやり取りなんかでもけっこう手がかりになる。これはもしかすると 進化してきたということなのかなと……。
近藤 進化していると思います。
内田 以前だったらできなかったことが、掲示板みたいなものが機能していくうちにできるようになったのかなという気がします。
近藤 例えば手紙でも進化したと思うんです。冒頭に「拝啓」と書くとか、作法みたいなことがある。電話でも、「もしもし、何々ですけど」と名乗って始めましょうみたいなのがありますが、たぶん最初は混乱があったと思うんです。ブログも、だんだんみんなの中で共通のルールみたいなのができつつある。
内田 新しいコミュニケーションをつくっていくとき、そういう過程があるのかもしれませんね。


中編「新しいツールで新しいコミュニティをつくる」へ続く(12/1公開予定)

*1:ヤフー、グーグル:yahoo!、googleともアメリカ合衆国のインターネット関連サービスの提供を行う企業で、世界最大級のインターネット上の検索エンジンを運営する。その日本版は多数の利用者がある。

*2:プロフ:携帯電話やWeb上で利用される、自分のプロフィールを作成して公開するサービス。

*3:炎上:インターネットの掲示板などに、非難や誹謗中傷、あるいは趣旨と無関係な書き込みが殺到し、本来の機能が働かなくなること。

*4:ミクシィ:株式会社ミクシィが運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。現在1500万人以上が登録している。すでに入会している登録ユーザーから招待を受けないと利用できない。

*5:ブログ:比較的頻繁に更新される日記形式のウェブサイト。ブログはウェブログweblog(造語で「ウェブ上の記録」のこと)が短縮されたもの。

*6:SNSソーシャル・ネットワーキング・サービス(social networking service) の略。人と人とのコミュニケーションを促進し、社会的なネットワークの構築を支援するインターネットを利用したサービスのこと。