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座談会 ネット時代のこころを探る(ゲスト 近藤淳也)【後編】〜京都大学こころの未来研究センター学術広報誌『こころの未来』〜

(本内容は同センターの学術広報誌『こころの未来 vol.3』掲載記事をセンターの許可を得て全文掲載したものです。)
(※)この記事は【前編】【中編】の続きです。

座談会 ネット時代のこころを探る【後編】

インターネット時代を迎え、人のこころのあり方、あるいはこころの捉え方はどのように変わりつつあるのか。常識にとらわれないウェブサービスの会社「はてな」を運営する近藤淳也さんをゲストにお迎えし、センターの助教が縦横に議論する。

小中学生のネット・コミュニティの可能性


近藤 「はてな」で最近「うごメモはてな」というのが始まりました。これは小中学生のコミュニティで、それまでのものと相互にあまり行き来がなくてちょっと別なんです。例えば「はてなスター」というのがあります。ブログのエントリーが面白かったらつけたりするんですが、子どもたちが入ってくる前は、だいたい1日で全員で5万個ぐらいしかつかなかったんです。それが「うごメモはてな」が始まったら、1日に300万個ぐらいつくようになったんです。
内田 それは、子どもたちがたくさんスターをつけちゃうということですか。スターのインフレじゃないですか。
近藤 すごくインフレになっている。まったく違う価値観で、1人が連打して星が何十個もついたりする。非連続性があって面白いですけどね。
内田 面白い。ルールが違うんですね。
近藤 全然違います。「はてな」がこういう機能をつくりましたよといったときに、反応してくれるユーザーさんの温度感、反応のしどころみたいなものが全然違うのを感じます。
内田 街が違う。
森崎 小学生でも最初のころの星のつけ方と、だんだんルールを学習してからでは変わってくるんですか。
近藤 そうですね。
森崎 いま、子どもたちはどれぐらいの時期なんですか。初期は済んだんですか。
近藤 初期というのはどこまでかわからないですが、「うごメモはてな」は、ニンテンドーのDSi*1でも参加できるんです。それでインターネットに初めて接したという子どもたちがかなりいると思います。小学校の高学年は、ようやく携帯電話を持つか持たないかぐらいですね。携帯でメールをしたりというより、お母さんに電話をするぐらいしか使っていないような年代だと思うんです。そういう人が、DSiというゲーム機で絵を描いて、世の中のみんなが見られる場所に投稿するというのは、たぶん生まれて初めてのネット体験だと思います。だから、最初は、コメントがぎくしゃくしたり、こんなことをするのかというようなことをする人がいました。
内田 例えば?
近藤 すごくびっくりしたのが、普通に考えたら、絵を描いてネットに投稿するなんて、すごく敷居が高いと思うじゃないですか。例えば、「はてなダイアリー」というブログでも、書く人と見にくる人の比率って1対20ぐらいなんです。そんなに書く人は多くなくて、見るだけの人が多い。ところが、「うごメモはてな」では全体の4割ぐらいの人が自分で絵を描いて投稿しているんです。そんなこと想像もしてなかった。すごく投稿が多くて、小学生が、可愛い女の子の絵を描いてポンみたいな感じで送ってくる。
内田 それは好奇心?
近藤 ですかね。それでいままでとは別のインターネットみたいな感じになってきています。全然インターネットを知らなかった人たちがどっと押し寄せてきて、そこで、いわゆるインターネット的なやり取りじゃなくて、その人たち同士で作品をコピーして返事をしたりとか。勝手にオープンな形で交換ノートみたいなのを始めちゃったりとか。
内田 それは知らない人同士でも?
近藤 そうそう。どんどん新しくやり始めるんです。そういうのを見ていると、昔インターネットが始まったころの様子をプレイバックして見ているような感じになってきたんです。まだまだ新しいことがどんどん起こる感じがするので、かなり面白い状況だと思います。
森崎 新しい世代のモデルができつつある。新しいコミュニケーション・ルールを作り上げて身につけるだけではなく、ネット時代の新しいこころの成長の仕方まで生まれてくるかもしれないですね。
近藤 ある程度コントロールされた中で、楽しい体験とかもいっぱいやって、多少失敗したり嫌な思いをしたりというのはあるかもしれない。でも、そんなにひどいことは起こっていないと思うんです。そういう中で、行動のルールみたいなものを身につけていって、そういう人たちがネットの新しい使い方を生み出し、楽しくネットをやっているうちに、ある程度称賛し合うとか、そういうカルチャーをどんどん築いてくれるとうれしいなと思います。
内田 最初から怖いものだと思って入るのと、そういう楽しい経験から入るのは全然違いますね。「うごメモはてな」をやった人たちが、これからどういうふうになっていくのか興味深いです。
平石 そういう世代が本当に世界とつながった形でインターネットを使えるようになっていくのかもしれませんね。

近藤淳也 プロフィール

株式会社はてなの創業者・代表取締役社長。1975年愛知県生まれ。京都大学理学部入学。サイクリング部に所属し、20歳の時、自転車でアメリカ大陸を横断。同大学大学院理学研究科へ進むが2年次に自主退学、プロカメラマンとしての活動を始める。2001年、有限会社はてなを設立し次々と新サービスをリリース、日本有数のコミュニティサイトとして成長を続けている。著書に『「へんな会社」のつくり方 (NT2X)』がある。


京都大学こころの未来研究センター学術広報誌『こころの未来』はPDFでもご覧いただけます

*1:ニンテンドーDSi:ニンテンドーDSiは、任天堂が開発・販売している携帯型ゲーム機。無線通信機能をもち、インターネットに接続できる。